日々旅にして、旅を栖とす


再びBryce Canyon

12月から3月までをHeber Cityで過ごした後向かったのは同じユタでもアリゾナとの州境に近いKanabの街。かつては西部劇のロケ地として頻繁に使われた為、小さなダウンタウンの数カ所に映画関係者の写真が飾られており、4月の終わりにはささやかな映画祭が開催される。ブライスキャニオン、ザイオン、グランドキャニオンの3大国立公園に日帰りできる他、レイク・パウエル、ペイジ(アンテロープ・キャニオン、ホースシュー・ベンド)、ウェイブ等々、数多くの絶景ポイント、ナショナル・モニュメントに囲まれ、現在では知る人ぞ知るアウトドア好きに人気のデステネイションとなっている。以前、ブライス・キャニオンを訪問した際に通過した事があったのだが、此処にHeber Cityで二冬続けてお世話になったお気に入りのRVパークの姉妹店が有る事を知り、5月の初めまでお世話になる事にしたのだった。

この地域では、4月後半辺りから夜間の気温が氷点下となる事がほぼ無くなり、日中の気温も20℃を少し上回る程度。元々が砂漠地帯で乾燥しており夏季には雨は殆ど降らなくなるので本当に爽やかなアウトドア天国となる。ウィークデーはガラ空きのRVパークも週末になるとほぼ満杯、その多くがATV(All Terrain Vehicle、バギーの様な軽量・ハイパフォーマンスの四駆)をトラックやトレーラーの上に載せている。街にもATVのレンタルショップやツアー会社が数件有る。確かに、人気スポットの多くはダートロードの先にあり、中には通常のAll Wheel Drive車では砂の中で身動き出来なくなる様な場所もあるので要注意。実は前回この辺りに有るPeekaboo Slot Canyonを訪れた際、ダート・ロードの砂の深みにスタックし、通り掛かったATVに引っ張り上げて貰った経緯がある。ダートロードの走破性に優れるとされるJeepのGrand Cherokeeとは言え、所詮はハイウェイでの快適さ重視のノーマル仕様。こういう場合を考えると、少し車高を上げて、オフロード向けのゴツいタイヤを履くべきかと思うが、次回乗り換える時はやはりテスラにするだろうなぁ。サイバー・トラックじゃないもっと小振りの四駆出して欲しいんですけど…

今回是非訪れたかったのはブライス・キャニオン。3度目だが、前回撮った写真がイマイチで今回しっかりした夜景を撮りたかった。因みにまーちゃん曰く、前回歩いたナバホ・トレイルはこれ迄歩いたトレイルの中でもベスト5に入るのだそう。夜の撮影の為の下見を兼ねていたのだが、既にトレイルに雪も無く夏の灼熱も避ける事ができ、聳え立つHoodooの間を抜けて行くというとてもユニークなトレッキングを快適に楽しむ事ができたのだった。その夜、Hoodooの間に横たわる銀河をイメージしながら一人現場に戻った。月は西の地平線近くにあり、夜明け迄は後2時間ほどあった。と、此処までは予定通りだったが、全く読みが甘かった。トラッカーを使わずに撮ると一つの構図を撮るのに1フレーム30秒x20枚で10分、ダークを含めると20分。さらに前景を撮るのに10分。合計30分は掛かってしまう。更に機材の準備や構図を決めるのに30分とすると、1時間。夜明けの1時間前には既に空は青くなり始め、シャッターを押す度に明るさが増して行く。画面の左端から右端でも明るさが異なり始める。こうなると後処理が大変。20枚の絵を重ね合わせてノイズを取る事が殆ど不可能となる。結構な数の写真を撮ったが、納得できるクオリティーのものは皆無だった。

昨年の写真

今回の下見は夕方に。残照に立つHoodoo。

さて今回のリベンジにあたり、前回よりは慎重にプランを立てた(つもりだった)。快晴の夜を選ぶのは言うまでもないが、月の出と月の入の時間、時間毎の銀河の位置と角度を予め調べておいた。午前4時に撮影を始めるとブルー・アワーまで2時間は有ると踏んで、夜中の2時過ぎにRVパークを出た。下見しておいた場所に機材を設置、今回は北極星が見える場所を選んだので、トラッカーを使う事ができた。キャニオンの上に横たわる天の河のアーチの全体を画面に収めようとすると、14ミリの超広角の画角をはみ出してしまう。従ってカメラを横に振りながら数枚撮影し、これを繋ぎ合わせる必要がある。うまく繋ぎ合わせるにはショット間で50%程度オーバーラップさせる必要があり、結局、横方向に数枚取る事になる。トラッカーを使う事のメリットは、露光時間を長く取れる事。その為、カメラの感度を下げてノイズの少ない綺麗な絵を撮る事ができるが、撮影に必要な時間は長くなる。1ショット3分で横に5回振ると15分。背景を撮るのでその2倍で30分。実際にはカメラを横に振る毎にカメラの位置を水平に戻す作業が入るので、x1.5掛けでざっと45分は掛かる。最初の設置と曲軸の合わせ込みに更に15分を見て、一つの絵を撮るのに1時間程度見込む必要がある。4月に入って暖かくなり始めたとはいえ、標高2400メートルの砂漠での夜明けは冷える。寒さに弱いまーちゃんには車に戻って貰った。5時過ぎに撮影を終える頃、まーちゃんが戻ってきた。空は青みを帯びてきた。二人で車に戻り一旦は駐車場を後にしたが、よく考えてみればこれは夜明けの写真を撮る絶好のチャンス。駐車場に戻り、また撮影場所に向かった。この時にはもう懐中電灯は必要なかった。

太陽が地平線の上に出ると、キャニオンがオレンジ色に染まり、Hoodoo(尖塔のような形の岩)やFin(魚の背鰭のように薄く広がった岩山)の先っちょが金色に輝いた。本当に綺麗だった。その後も何枚も写真を撮り十分満足して車に戻った。サーモスに残ったコーヒーを啜りながらの運転。一時間半かけてRVパークに戻り、昼まで眠り込んだ。

朝日を浴びて輝くキャニオン

昼過ぎに目を覚まし、撮影したファイルをコンピューターにダウンロード。横方向に位置をずらしながら撮った写真を一枚のパノラマに繋ぎ合わせようとするがなかなか上手くいかない。広角レンズの画像は周辺付近で大きく湾曲する為、レンズの画角を目一杯使ってそれを繋ぎ合わせるのは極めて難しい。従って、理想的には標準レンズに近い画角で湾曲の少ない画像を重ね合わせるのが望ましい。ただそうすると一枚毎の画角は狭くなるため、全体をカバーするにはより多くの絵を重ね合わせる必要があり、撮影にはより多くの時間を掛けなければならない。更に、眼下に広がるキャニオンと上空に広がる天の河を同時に一枚の絵に捉えようとするとカメラを横に振るだけでなく縦方向にも振る必要がある事を思い知らされた。

直ぐに再リベンジをしたいところだったが、暫くは天の河が東の空にある時間には月が出ており撮影は不可。次回は月が新月となるのを待って再度挑戦する事にした。そのタイミングで天気が良い事を望む。

とうとう次のチャンスが訪れた。月は新月、天の河は更に西へと動き、撮影に取れる夜明けまでの時間は長くなった。天気も数日間は晴れの予報だった。前回の反省から、2セット撮るつもりだった。1セット目は前回同様14ミリの超広角を横に振るが、カメラを縦にセットして上下方向の画角を稼ぎ、横方向には枚数を増やして前回と同じ画角をカバーする。2セット目はレンズを24ミリにセットして、1段目を横に振り、更に縦に角度を上げて2段目を撮る。撮影時間は倍増するが、夜明けまでの時間も増えたので何とか収まりそうだった。前回より更に1時間半早くRVパークを後にした。今回まーちゃんは午後にお仕事の予定がありお留守番。

駐車場に付き、前回同様靴にスパイクを装着し撮影場所へと向かうが、僅か2週間程度の間にトレイルの雪は解けており、途中でスパイクを外した。その頃にはすっかり目が闇に慣れ、眼前に広がる天の川と大きな蠍座もはっきりと見えている。眼下のキャニオンも星灯りに照らされ残雪が白く輝いている。北の空には一際大きな大熊座(Big Dipper)。だが、曲軸合わせに必要な北極星を探すのに北斗七星を頼る必要は無い。何故なら教科書にある通りの小熊座がはっきり見えているから。緑のレーザーで極軸を合わせるのに30秒も掛からない。

まーちゃんが居たら絶対に叱られる様な崖っぷちに三脚を固定し、いざ狭い崖の上での撮影を開始した。3時間はあっという間に過ぎ、撮影を終了した時点でまだ空は真っ暗だった。帰途、1時間ほど走った時点で眠気が襲ってきた。ジープを道路側の空き地に停めて仮眠した。おそらく5分も寝ていないと思うが頭はスッキリした。大声でカラオケを歌いながらモーターホームに戻ったのが朝の6時半。夜はすっかり明けていた。絵を見るまでは分からないが、全て上手くいったと思った。これでダメなら何かが根本的に足らないのだろう。まーちゃんはさっきまで起きていたようだ。

その夕方にファイルをダウンロード。処理を開始した。撮影中は気づかなかったが、画面全体が緑掛かっており、これを取り除くのに結構手を焼いた。星空を撮影する際には、街の明かり、所謂「光害」の影響を取り除く為、特書なフィルターを装着している。光害の殆どはナトリウムによる黄色の光。地平線近くに現れる。だが、今回の緑のモヤは妙に明るく画面のかなり上部まで広がっている。カメラの異常か、ホワイト・バランスの設定ミスかと思われたが、何とかソフトウェアを駆使して目立たぬ廃位に抑える事ができた。

14ミリの方は結構簡単に処理する事ができた。24ミリも多少てこずったが最終的には上手くいった。1Xには14ミリの無難な方を投稿したが、無事パブリッシュして貰えた。苦労が報われた気がしたが、学ぶ所も多かった。

数日前にニュースが飛び込んできた。丁度、最後の撮影をした日の夜、1980年代以来という大規模な太陽活動が観測され、ユタの全域及びアリゾナ州の一部でもオーロラが観測された、との事。一生懸命に取り除こうとしたあの緑のモヤは実はオーロラだった事が判明しようやく納得が行った。早速、オリジナルのファイルを再加工して、緑のモヤを復活させた次第である。

オーロラとは知らず「緑のモヤ」を極力排除した。14ミリを縦にして撮影したもの。
「緑のモヤ」を復活。24ミリで撮影。

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